お侍様 小劇場
 〜枝番

   “本日はお日柄も良く” (お侍 番外編 122)



     4



どんな無理難題へも、
難色を示しつつ、賛成出来かねますねぇなんて渋りつつ、
だってのに…結果的には
上手にお膳立てしてくれる“心当たり”をお持ちの久蔵お嬢様。
携帯でも連絡は出来、それで呼び出した彼へと依頼したのが、

  とある練達を捜し出すこと

専属がいないがゆえ、
どの顔触れがお迎えに呼ばれるかもアトランダムで。
それより何より、車輛部の面子を把握しておられるかも判らないため、
迎えに行った先で
お嬢様へ間違いなく当家のドライバーだと判ってもらう符丁代わり、
久蔵さんを“ヒサコ様”と呼ばせる部署に、
ほんの1週間だけ紛れ込んでいた謎の男性の、
驚くべき働きを思い出した紅ばらさん。

 『今更 正体をあぶり出したい訳じゃあない。
  感触からしても、護衛されてたらしいのは事実だし。
  傷ひとつ負わないで済んだのは大きにありがたかったが。』

とはいえ、
何の説明もなかったままのあの襲撃騒ぎは、
そう簡単には忘れられはしなかろう、
一生に一度有るか無きかのレベルの 怖い想いだったわけで。(んん?)
到底、ヒロインになったみたい〜と浮かれていられるものじゃあない。
しまいには“幻覚だったんではないか”と、
自分で自分を信じられなくなりかねぬ。
せめて そうではないとだけ、確かめさせてはくれまいか…と。

 『そういう方向で解き伏せたので、
  今一度だけ、姿を見せてくれるという方向へ
  繋ぎをつけましたよ。』

仲介に立ってくれたのが、表向き ブライダルチェーンの御曹司殿。
なので、日頃はあまり我儘を言わない彼女が、
どうしてこんな無体を言い出したのかにも、既にピンと来ていたらしくって。

 『お節介かとは思いましたが、
  彼に何をしてほしいのかも、先に告げておきました。』

 『……っ。』

あの夜、その懐ろへと抱え上げられたのへ
この久蔵が抵抗しないで大人しくしていられたのは、
果たして、ただ緊急事態だったからという番外な理由だけだろか。
そういう折こそ、全身の反射が研ぎ澄まされる性分のお嬢様だし、
(だからこそ護衛をつけにくいのだともいえ。)う〜ん

  現に、
  あの晩、自分へと降り注いでいた不穏な気配に関しては、
  あの人が現れる前に感じ取れてもいた久蔵でもあって。

なのに…どうしてだろうか、
何も知らされてなかった その最初っから、
あの謎のドライバーさんへは、
抗おうとか逆らおうとか、ましてや叩きのめそうとかいう、
今回それが出たらば大変だと案じている種の、
そういう方向の気持ちや反応が、一切涌かなんだ紅ばらさんで。
間合いに入られた呼吸の、あまりの絶妙さのせい?
それだって重々怪しんでいい要素なはずなのにね。

 “もしかして…そういう相性とかがあるのかなぁ。”

だとしたら、そんなあの人こそ、
花婿役として傍にいてくれたら大助かりなんじゃあなかろかと、
そんな奇跡よ もう一度と、思ったらしいお嬢様なんだろな…と。
そこは、こちら寄りの“結婚屋”さんだったので、
容易に察しもついたそうで。

  そこで、

実はコンタクトさえ難しく、
どんなコネがあるのだこやつはと、あの島田警部補でも眸を剥くだろう、
凄腕であればあるほど、
知っているけど だからこそ恐れ入る、
そんな、ある意味“裏社会”の組織に属すそのお人。
本来、声をかけるのでさえ命懸けとなる仕儀へも臆せずに、

 『ウチのお嬢様が、窮地に立っておいでなのです』と

内容だけは正直に、切なるお願いなのだと持ちかけて。
それでやっと取りつけることが叶った、いわば奇跡のような再会で。
なので、もうこれっきり。
再び逢える奇遇は無しよと、いい聞かされたし納得もしている。
むしろ、良くも出て来てくれたと、相手の自信に驚いたほど。

 “………明るいところだと、”

ますますと…あのその、
昔のほうのシチにそっくりだったなぁvvと。
それで自分も抵抗なく身を任せられたんだろうななんていう、
口下手だからこそ飲み込んでおれた そんな感慨を。
当日の微妙な緊張の中、
実はこっそり噛みしめてらしたらしい
結構 余裕でもなくはなかった紅ばら様だったのは
ともかくとして。(おいおい)

 「上手な編集ですよねぇ。」
 「本当にvv」

ホテルJのブライダル部門を
実質 運営していると言っても過言ではないほどに、
本店と同等の質でのサービスを提供していただいている
“ポンパドール”主導のもと。
撮影の作業を進め、素材も徹底的に吟味して編集された完成作品を、
市場へ出回る一足前に、まずはと鑑賞しておいでのお嬢様がたで。
久蔵お嬢様の可憐さを、
その姿のみならず、仕草やちょっとした表情からも判るような、
カットや流れに仕立ててあって。

 「相手の方も、
  まるきり映ってない訳じゃないのがまた、
  謎めいててステキですよね。」

遠目のロングな映像では全身も映るが、
素早く次の画面へ切り替わり、
すぐさまバージンロードをゆく花嫁の姿へ切り替わる。
祭壇の手前で、さあやっとの儀式ですよと、
優しく微笑むお人の、
そこだけしか見られない きれいな手や、
動作の秀逸さがまたドキドキさせるし。
形のきれいな顎先や、ぎりぎりでキリリとした口元だけ。
つまりは、優しくも蠱惑的な微笑みをふんだんに使われているがため、

 「うあ、これは下手な女子ゲーより萌えるかもvv」
 「確かにvv」

 歯並びがきれいだよねぇ。あ、頬っぺもすべすべだし。

 肩や背中といい、いい体つきしてなさいますしねぇ。

 私たちもあの場にいましたが、
 その時はさほどのぼせはしなかったのにね。

 だってそれは、
 花嫁の父よろしく、こっちも緊張していたからで
 などなどと。

通り過ぎたからこその当事者特権。
笑い話のノリにして、
それはのほほんと、完成したPVを鑑賞しておいで。
当事者だった紅ばらさんも、
どんな映像になってたものかは知らないでいたらしく。
とはいえ、編集にはあの良親が立ち会ったのだから
間違いとやらは一切なかろうとの安堵もある。
厭味のない程度にハレーションなどの加工を施した画面では、
主役の美々しい花嫁が、だが、媚びたような笑顔は見せないところが、
ほのかな緊張を感じさせて初々しかったし。(大きな誤解、その一)
まだ幼いくらいにうら若き花嫁だったのへ、
迎える花婿が やや年嵩なのが、いっそ安定感を与えており。
上背もあってのすらりとした肢体には、
ライトグレイのロングタキシードがよくお似合いで。
優しげで、だのに男性としての頼もしさもお持ち。
女性のエスコートという、
下手にベタだと強引だったり鼻についたりしかねぬ段取りや所作も、
爽やかな精悍さが香る、堂に入った手際なのが、
見ているだけなのにキュンとくるほどで…
女子ゲー恐るべし。(大きな誤解、その二)

 「………。」

久蔵へのあまりな接近と、その中でのキスシーン。
ストップをかけるべき責任者でありながら、
それを怠ったカメラマンのやり過ぎを、
ほんの小さな動作とそれから、
物言いの声音という、ささやかな取り合わせのみで、
その場であっさりと制してくれた。
柔和な態度ながらも、
その根底に鋼のような強い自負があったからこそ出来た、
威嚇というか威圧だったのであり。
一見、物腰柔らか人だったのに、
視線や気配へ、意志の強さをにじみ出させることが可能な、
まるでその身を
常に戦場に置いてでもいるかのようだった、
あのお兄さんのようなお人は、そうそう どこにでもとは居ないのだ。

 「………。」

人並み外れたレベルの反射神経と、
それに連動する途方もなく鋭い攻撃能力へ。
今回 やっと、
普通一般の女子高生なら、
まずはそんなことを案じはせぬぞという方向での自覚が芽生えた訳で。

 “………。”

久蔵が見下ろしたのは自身の手。
鍛練としてではバレエのバーしか握ったことはなく、
指先へまでの表現力こそ求めたが、
ここへと必殺の得物を握り、
全身を連動させて自在な戦いを…という順番での、
いわゆる“巧みさ”を磨いた覚えはなかったのにね。
前世から持って来ていたらしい“それら”は、
使わずに済めば そのまま埋もれたやも知れなかったけれど。
ここ最近の大暴れの副産物とでも言いましょか、
バレエの所作にも鋭さが増したと評されたほどに、
錆びついて鈍るなんてとんでもない、
ますますもって鋭敏に働くようになっており。

 “自制の才を身につける修養もいるようだな。”

大きな力であればあるほど、行使より制御が大事です。
自分で操れない力は、自分を滅ぼす危険も持ちます。
よって、まずは止め方を教わるものです…という
基本をすっ飛ばして特化された身。
今になってやっと
それが大きな間違いだったらしいと気がついているのだから、

 『もうもう、相変わらずうっかり屋さんなんだからvv』
 『……vv///////』
 『シチさん、シチさん。』

撮影の現場にも一応は駆けつけてくれていたお友達。
花婿役がいきなり消えた謎に、一部の関係者がぎょっとしていたが、
こちとら、少しでもボロが出てはいかんというのが最重要優先事項のお歴々。
そんなの二の次、さあさ帰ろう、
花嫁衣装のままでもいいんじゃない?と、
そこまで大急ぎでの撤収をこなした帰りの車中で。
大事業が終わったと大きな吐息をついてた紅ばらさんだったのへ、
やっぱり同じようなご指摘をくださって。
あまりにお呑気なお言いようへ、
ハラハラし通しだったのにと、
甘やかしへのクギを差しかけたひなげしさんへも
にこぉっと微笑った七郎次お嬢様が続けたのが、

 『大丈夫ですよう、
  だって久蔵殿はとっても我慢強い子ですもの。』

 大好きな人が困ることへは、
 じっと黙っていられるし、大人しくしていられる。

 『甘えたくてもそれがお母様を困らせるのならと、
  じっと我慢出来てた、そりゃあいい子ですものねぇ。』

 『………。』

しっとりと静かに、ではなく、
歌うような調子での。
だが、それはそれは優しい囁きにて、
白百合さんから“ね?”と微笑まれた紅ばらさんが。

そのまま双腕のばして来て、
やさしいお友達の懐ろにもぐりこみ、
首っ玉へしっかとしがみついたのは
言うまでもなかったのでありました。









 ● おまけ ●

 Q;ところで。
   どうして“新郎役”が榊せんせえじゃいけなかったの?


 撮影中のフレームの中、唯一 花嫁役の久蔵殿の傍らにいられる存在。
 それへと思わず回し蹴りを決めちゃわないかが心配だというのなら、
 そのお婿さんをあの兵庫さんに演じてもらえば良かったのに。

 「だ、だからですねぇ。」
 「お医者様なのにこういう仕事での顔出しはいけないのでは?」

 そんなこと言ってたら、
 クリニックのCMに出てるお医者さんたちも問題有りじゃないでしょか。

 「だから…。」
 「ねえ?」

 バージンロードでの介添え役をしてくれたほどだ。
 時間が作れなかったとも思えない。

 「………。」
 「えっとぉ…。」

 白百合さんとひなげしさんがお顔を見合わせたのは、

  ―― 兵庫さんとは、本物の結婚式でって思うのが筋でしょう。

 彼女らとて、
 それこそ一番の候補としてちゃんと思いつきはしたけれど。
 そのまま、いやいや、いやいや…と、それはダメでしょうと、
 いかにもヲトメらしい理由から、
 速攻で却下にしてしまった案であり。
 むしろ、

 「もうもうどれほどドキドキしたか。」
 「そうそう。」

 スタッフの方々が余計な気を回して、
 下手なスキャンダルになってもお困りでしょうからなんて言い出して。
 リサーチした結果、
 日頃から“お兄様のように”親しいじゃないかって
 榊せんせえに花婿役をと白羽の矢が立ったらどうしよかって。

 「だから、お返事をとっとと出さねばと。」
 「そうそう。
  日延べしたなら尻込みしていると思われるかもって、
  そりゃあ慌ててもいたんですのに。」



 「 ………………っ。(あ)」


 「え? あ…って?」
 「きゅ、久蔵殿?」

 ……ヒサコ様、
 もしかして、今の今まで気がつかなかったとか?

 「〜〜〜〜〜〜。////////」

 「おいおい。」
 「まあ、もう済んだことではありますが。」



もひとつおまけ 

   〜どさくさ・どっとはらい〜  12.09.19.〜09.21.


  *ちょっと駆け足でお送りしました解決編でした。
   あの特殊な島田さんチとからませるのは、やっぱ難しいもんでして。
   家長が作家さんなんで、
   あんまり接点がないだろう仔猫さんチはともかく、
   こちらは…白百合さんが剣道やってたり、
   勘兵衛様が警部補だったりしますしねぇ。
   しかも紅ばらさんが
   微妙にちょいと名を馳せてる
   セレブ層に籍を置いておいでなので、
   そこ繋がりって絡みのお話にしたかったのが、
   既出の『サマーエンド・ラプソディ』だったわけです。

  *ところで、
   こっちでは“結婚屋”の良親様ですが。
   (自分のキャラに様つけてる時点で妙なものですね)
   いまだに決めかねているのが、
   この人、もしかして
   須磨に親戚がいるんじゃないかという点でして。(笑)
   親戚どころか、本人だとしても良さそうな
   いろいろ通じているし、融通も利かせてはるしと、
   お見事なまでのフットワークじゃあありますが。
   それと、島田一族の良親様は、
   転生人だってことになってるし。(宮原様とのコラボにて)
   ただねぇ……。
   こっちはともかく、向こうの務めって
   そうそう掛け持てるほど甘くはないはずですしねぇ。

   「警視庁の警部補が、七郎次の追跡をしかかったそうだが。」
   「いやまあ、後始末はちゃんとしてますよって、
    これ以上の干渉はして来はれへんて思いますえ。」
   「元はといえば、
    お主が例の令嬢の護衛を七郎次へ振ったのだったよなぁ。」
   「さて、何のお話しですやろなぁ。」

   こ〜んな恐れを知らぬお兄さんが
   双子とかで何人もいたら
   おっかないことこの上ないんですが。

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